2006.06.29

「羊飼いの歌・3」

谷に戻るとすぐに羽根の生えた夢の実を
ひつじに食べさせてやった。
織人は、雪の中で亡くなった夢人の墓に手を合わせ
一緒に羊を見てくれた。
ひつじは 喜んで実を食べ、ほっとした顔で
息を引き取った。

「この夢の世界の中に死があるとは思わなかった。」

私は織人に言った。

「うん、彼は、あなたと何処までも共に歩みたい、
いつまでも寄り添いたいと強く願ったんだ。
だから実世界でのあなたとも、一緒になりたいと
願うようになり、捜し求め この世界での肉体から
離れてしまった。
実世界で、互いに夢の中で会っていたことを
自覚してめぐり合うことは無いだろう。
たとえ会ったとしても気付かず すれ違っているんだ。
だから、彼は永い時間を彷徨うことになるだろうね。」

織人は 彼の行方を知っているのだろうか。
寄り添うことを強く望んで 離れて行ってしまうとは
どういうことなんだろう。 私には聞いたことが飲み込めないまま
織人の話は続いていた。

「でもね、このひつじは、空のひつじになる時が来て
夢の実を食べたんだよ。
今頃 雲の上で元気に跳ねているのさ。
空のひつじを数える夢人が現れて
呼ばれれば走って降りてくるよ。」

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「羊飼いの歌・2」

「羊飼いの歌」の続きです

ひつじたちは代わる代わるどこかで数えられては
走って行き、さっぱりと毛を刈られて帰って来て
また谷間でのんびり遊んで疲れを癒していた。

私はまだ 何が出来るのか分からないまま
そんなひつじの群れに 慰められながら暮らしていた。

けれど、夢の実を採りに行ってから幾日か後
一頭のひつじが倒れてしまったのだ。
苦しげに みるみるうちに弱っていくひつじに
私は何か欲しい物は無いかと尋ねると
最期にもう一度夢の実が食べたいと言うのだった。

私が急いで山を下り、あの樹の所まで来て見ると、
残っていた実は完熟して翼を生やし、
今、飛び立とうとしているのだった。

そのひとつを何とか捕まえて持ち帰ろうとしていると
夢織りの織人が通りかかった。

「お久しぶりですね。あなたは独りで
羊飼いになったと、聞いてはいたけど。」

私が、死んでしまいそうなひつじが食べたがっている
夢の実を 持って、急いで帰るところだと話すと
織人は 一緒に谷に行こうと言ってくれた。
すぐに いつも織人が織物や糸を運ぶために使っている荷車を
可愛いろばに轢かせて来てくれた。

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2006.04.24

「うた」

 若葉の萌える頃、
麗らかな日の射すベランダに
歌う事の許されなくなった
サンプル版のCDは、
軒に鳥除けに吊るされて
恋の歌を歌う鳥たちを睨みつけていた。

「てんでバラバラ、無秩序な騒ぎだ!」

 CDはイライラと目障りな光を撒き散らした。
鳥たちは建物を離れ、向こうの電線に止まったり
樹に止まって 囀るのに忙しく、
CDに構うどころでは無かった。

「ふん。馬鹿らしい。」

だからと言って、一人で退屈なCDは
自分で歌うことは出来ないのです。
空に雲がかかってきて、CDも うとうとと
うたた寝をしていると、今度は風が強くなってきました。
南風が急に暴れだして、物干しに掛かっていた物は
煽られていくつか芝生に落ちていきました。

 ふいに芝生に放り出されてびっくりしたCDは
風に吹き払われた青い空と、流れていく雲を
呆然と自分の上に映していました。

 CDは 今までずっと、
自分が持っている途中までしか無い曲たちを
歌の全てだと思っていました。
こんなにも 世界は まだ知らない歌で
溢れているなんて・・・
木々の萌える悦びの、そよぐ風の、
芝生の上の心地よいぬくもりの、
柔らかい生命の息吹の、

うた、うた、うた・・・・・・・・・・・・

「ああ、知らなかった!! 
私はもう 歌えないけど、やっと
歌を知ることが出来たんだ。」

空はやがてべにがら色に 暮れていった。
変わっていく色の一つ一つに驚き感嘆していると、
黒い空に自分とそっくりな 月が
昇ってくるのが見えた。

「あれ?君は? 真ん中に穴が無いんだね。」

「ええ。でも、あなたとそう、変わりませんよ。」

 新しい友達は微笑んで言った。
そして、草むらの中から 
ひどく懐かしいような音が聞こえてきた。
機械に入ったときに聞いたような、
じぃーーーと 静かに続くあの音。

 「けらの歌」だと、
月は教えてくれた。

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2006.03.06

「羊飼いの歌」

** 中々最後まで書き終わらないので
少しずつ更新します **

[ガイド・夢の片隅で閉じられた本]
お話はこの続きになります・・・・

いつか夢の中で閉じられた
夢を紡ぐ物語、再び誰かが開く時
そこには何があるのだろう・・・・・・

そこには「私」1人が残るだけ
それでもページは開かれた。

雪の解け始めた山の中で私は彼を見つけ出した。
亡き骸をひつじたちが 運んでくれたのは
山の谷間の 小さな草原。
そこはひつじの 楽園だった。

ここに眠らせてあげよう…

暫く泣いていたけれど
朝日を受けたひつじの群れを見て
ここに暮らそうと決意した。

 もう 夢は織らない…

やがて 木々が芽吹き始めたので
2人で撒いた夢の実を見に行くと
そこには力強く芽吹く若い樹があった。

 夢は終わらない…

私は 夢のひつじと暮らす
羊飼いになった。
わたしが織る事をやめても、夢は何処かで
紡がれていくのだから。

やがて季節は 廻り 
木々に実りを運んできたので、
ひつじを連れて山を下り 
あの夢の実を食べに戻った。

彼と食べようと 約束した木の実、
待ち焦がれたその味は
少し悲しかったけど、
彼と見た夢の 果てしない続きを
思ってゆける気がした。
誰かの夢の続きが 何処かでまた
紡いでいかれる、終わらない夢の
端を 繋いで行こう…

「今までこんなの沢山実を付けた樹を
見たこと無いよ。」
ひつじは言った。
ひつじたちが食べきれず 実が樹に沢山残った。
私は木の実を一つ持って谷間の草原に帰り
彼の眠る土に埋めてやった。

「夢の実が生ったよ。 もっともっと
夢が溢れ出す わくわくするような味だよ。
分かるよね。届くよね。ずっと一緒に…」

立ち込めた霧の中で 彼の姿が見えた。

 そうだよ 泣いてはダメだよ。
ずっと傍にいるから。

 何よ。泣いているじゃないの。

 だって君が泣いているから。
一緒なんだもの。

 一緒なんだね。

頷きながら 風で流れていく霧とともに
彼はまた消えていった。

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2005.12.22

「リレー小説」 が完結したようなので

Reset のねじまきさんが
「リレー小説/正しい歩き方」として、
リストを出してくださったので
コピーしてこちらにも置かせて頂きます。

ありがとう~

*******************

1.すずめの巣「羊を数えて」

2.Reset  旅の終わりに見る夢 

3.すずめの巣 「夢の色糸を 探して」 

4.Reset  予測不能な未来の前で 

5.すずめの巣 「夢の味」 

6.Reset   奇跡の山 /最終章

******************

「すずめの巣」の文の
冒頭にはトラックバック先として
一つ前がリンクされていますので
末尾に次へのリンクを入れてみました。
(「羊を数えて」は先頭なのに次へがトラバしてあるですが・・
このように続いていくとは思っていなかったので)

来年も計画性の無い私ですが
宜しく御ひいきに~(ちょっと早いか・・)

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2005.12.19

「夢の味」

Reset の 「予測不能な未来の前で」にトラックバック

「春が来たら、またここで会ってくれますか?」
彼に言われるまで私は 夢の国に冬が来ると思ってもみなかった。
秋が訪れ、木の葉が舞い落ち ふかふかと積もって
今は楽しかったけれど、確かに冬は来るのだろう。

「どうしよう、寒くなったね。指が凍える。」

もう、羊の毛を刈るのは 可哀想だ。

「こんな季節は夢織りを休んでお部屋で食べるんです。」
と、羊が言う。

なにを?と2人が羊を見ると
「何のために織ってきたんですか、食べるためでしょ?
ゆっくり あったかい所で夢を食べるのが 冬の楽しみ。」

と言うので、2人は半信半疑で端っこを少しちぎって食べてみる。
一生懸命紡いできた夢は、美味しかった。
苦心した所、楽しかった所、いろんな味かしてその時々を思い出す。
2人は小さな小屋の暖炉の前で少しずつ夢をちぎって食べた。
けれども 雪がちらつく頃には、2人はもっと美味しい夢を
相手に食べさせてあげたいと思うようになって、
お互いに見たことがない
知らない世界のわくわくする夢を探しに行くことに決めた。

羊が お別れにやって来た。
「また眠れない夜が来たら、数えてね。いつでも跳んで来るから。」
ありがとう、と背中を撫でてやると毛に何か 絡まっている。
ほぐしてみたら木の実だった。
「これは 何かの実かな?」
「あぁ!夢の実の種だ、昨日みんなで食べたから。」
「美味しいの?」
「うん。とっても。でも、もうみんな食べちゃったので よそへ移るの。」
「いいなあ!夢の実。」
「ねぇ、種なんでしょ?これ。蒔いたら出て来ないかなあ。」
「出てくるよきっと。だって自然に生えてるもの。」
「どうやって育つのかな。」
「美味しい実が生るのを夢見て、待っていることぐらいしかないけど。」
「そうか!この実を ここに蒔いて いこう。」

2人は冷たい土を掘って
蜜色の羊の毛を少しもらって包んだ夢の実を蒔いた。
まだ食べたことのない 夢の実がたくさん生って
また2人で一緒に夢織りをしながら 美味しい夢の実を食べることを
いつも願っていようと約束して
2人は うっすらと白い野原に足跡を残しながら
思い思いの方へ別れて行った。

「軌跡の山」

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2005.12.11

「夢の色糸を 探して」

「旅の終わりに見る夢」の続き トラバします。

私は夢を紡いでいるつもりだった。
紡いでいるそれが 私の夢だと思い、
織りあがるにつれイメージから離れていくのを
そんなものなのだろうと 眺めていた。

「違うと 思わないのかい?」

機織りは言った
芳しい大地と 甘い水から育つ 柔らかな草を食べた
蜂蜜色に輝く羊の暖かな毛 が 必要なのだよ と

それで私は
織りかけの夢を抱いて
何処まで続くとも知れぬ夢の淵へ小舟で漕ぎ出した 。
何処へ行けば 見つかるのか
地図も無い 夢の国。

小舟で漂い 小舟で眠り
やがて 流れ付いた岸に
夢を抱えて佇む人を見た。
泣きたいほど 懐かしいような
その夢に まだ足りない所があるとその人は言う。
「僕独りでは 仕上がらないのだと
機織りに言われて
紡ぐのを止め ここに立って居たところです」

私は小船を降りて その人の夢に見入った。
そして 抜けている所に挿す色が
私の夢織りのなかに あるのに気が付いて
一本抜いては 挿し、
一本抜いては 飾りを編みこんでいった。

2人は並んで水の畔に座り
飽くことも無く 夢色を綴り合った。
いつしかそこは陽だまりになり
芳しく 柔らかい草が茂り
蜂蜜色の 羊の群れが 戯れていた。

私はまた 新しい糸を紡ぎ始めた。
2人の夢はなお 色豊かに広がって行き
暖かく 2人を包んでくれた。

「予測不能な未来の前で」

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2005.12.09

「冬茜」

ある冬の初めの夕暮れ 私は 自転車をこいでいた。

それは初めて通る路地 だった。
この近所には昔 アメリカの人が住んだ家屋が
今も所々かたまって残っていたり
幾つかは 外国の方がまだ住んでいる。

それらの建物は、どれも木造なのだが庭も家もゆったり構えられ
外壁の板が白く塗られ洋風の田舎の家と言う雰囲気だが
通り掛かった路地にあったのは、ぽつんと1軒だけの廃屋だった。

夕日が辺りを薄くそめていた。
家の凸型に張り出した部屋は大きく取った二面の窓で
建物越しに向こうが見えるような作りだった。
今ちょうどそこへ 低く深く差し込んだ澄んだ夕日に 
部屋の中がセピア色に染め出されて、
まるで時空を超えたようにノスタルジックに息吹いて見えた。

だから私は
その中に 有り得はしない風景を描いてみた。
揺り椅子に座ってカップを片手に笑っている
君と私を黄昏の中にそっと置いて。

叶う事の無い 暖かい時間を
独りで胸に仕舞い 冷たい風の中
また自転車の ペダルを踏んだ。

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2005.11.14

「ホーンテッドマンション?」

某プロバイダーの某サークルさんで
書いてきたお話です。自己責任で
回収してきた。(嘘、ネタがなかったので載せる)

母はかつて、某百貨店もどきに勤めていた。
そんな話を息子にしてやると、珍しく尊敬の眼差しで
母を見るのであったが・・・・・・

息子 「お母さん、凄いねー!!!!
    だってさぁ、本店に勤めてたんでしょ?
    本店だよ? その会社の 初めて出来た
    由緒正しいとこでしょ?????」

 母 「え?そこんとこ あんまり重要じゃないんだけど。
    別に本店起用にトクベツな試験があるわけじゃないし。
    ただ たまたま、実家がそのお店に近かっただけなんだし。」

息子 「でも本店でしょ????」

 母 「まあ、そりゃあねぇ。
    でも、地方から東京にきて
    華やかな所で働いて、都心のマンションに住んだりって、
    憧れて来る人もいるんだけどね。
    現実はねぇ・・・・
    辛くて、儚いものだよぉ~

    店舗勤務って拘束時間長いんだよ。
    夜八時ごろまで店で働いて、片付けて帰るのは
    夜遅くだよ。ただただ、泥の様に疲れて帰って寝るだけ。
    冷たい だれもいないマンションの部屋。
    重い足を引きずって、行き来するだけ。
    まるで生ける屍のように、本店とマンションを。
    魂の抜け殻のように、本店とマンション、
    来る日も来る日も、本店とマンション、
    ほんてんとまんしょん ほんてんっとまんしょん
    ほんてっとまんしょん・・
    ほ~んてっどまんしょ~ん・・・・

      ね、怖いでしょう?」

息子  「はいはい。」

実は実話でした。
  

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2005.10.28

「予測変換の湖」

Resetラブソングと言う往復書簡へのトラックバック*

書こうとして思い出せない漢字があった。
携帯電話に打ち出してみようと思って、
ボタンに指が触れたとたんに 真っ先に君の名前が飛び出した。

予測変換という機能なんだ。

私がいつもメールを送りそびれているものだから、
「待ってました」 とばかりに飛び出した君は、嬉しそうに笑っている。

―いや、その だから、忘れてるわけじゃないんだってば―

君に言いたくて、言いたくて、今のの私には言えない言葉が、
幾つも、幾つも、書いては消したメールが、
予測変換と言う名の地底湖に
来る日も来る日も流し込まれる。
私が消しても、湖は、言葉ひとつずつ取っておいて
「メール、出してお上げなさいよ」と、お節介を焼いてくれる。

―いや、やっぱり駄目だよ。―

今日の君からのメールも、
私の心の上にある枯れた井戸に呼び水を差し、
君の託した言葉は、汗をにじませながら何度も漕いでいくれているけど、
地底の湖は、どうやら永久凍土の下にあるらしい。

漢字を探し終えた私は、氷の下の湖を確かに感じ
ひとり 照れ笑いしながら携帯電話を閉じていた。

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