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2006.04.24

「うた」

 若葉の萌える頃、
麗らかな日の射すベランダに
歌う事の許されなくなった
サンプル版のCDは、
軒に鳥除けに吊るされて
恋の歌を歌う鳥たちを睨みつけていた。

「てんでバラバラ、無秩序な騒ぎだ!」

 CDはイライラと目障りな光を撒き散らした。
鳥たちは建物を離れ、向こうの電線に止まったり
樹に止まって 囀るのに忙しく、
CDに構うどころでは無かった。

「ふん。馬鹿らしい。」

だからと言って、一人で退屈なCDは
自分で歌うことは出来ないのです。
空に雲がかかってきて、CDも うとうとと
うたた寝をしていると、今度は風が強くなってきました。
南風が急に暴れだして、物干しに掛かっていた物は
煽られていくつか芝生に落ちていきました。

 ふいに芝生に放り出されてびっくりしたCDは
風に吹き払われた青い空と、流れていく雲を
呆然と自分の上に映していました。

 CDは 今までずっと、
自分が持っている途中までしか無い曲たちを
歌の全てだと思っていました。
こんなにも 世界は まだ知らない歌で
溢れているなんて・・・
木々の萌える悦びの、そよぐ風の、
芝生の上の心地よいぬくもりの、
柔らかい生命の息吹の、

うた、うた、うた・・・・・・・・・・・・

「ああ、知らなかった!! 
私はもう 歌えないけど、やっと
歌を知ることが出来たんだ。」

空はやがてべにがら色に 暮れていった。
変わっていく色の一つ一つに驚き感嘆していると、
黒い空に自分とそっくりな 月が
昇ってくるのが見えた。

「あれ?君は? 真ん中に穴が無いんだね。」

「ええ。でも、あなたとそう、変わりませんよ。」

 新しい友達は微笑んで言った。
そして、草むらの中から 
ひどく懐かしいような音が聞こえてきた。
機械に入ったときに聞いたような、
じぃーーーと 静かに続くあの音。

 「けらの歌」だと、
月は教えてくれた。

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コメント

軒に鳥除けに吊るされて、恋の歌を歌う鳥たちを睨みつけるCDというこの設定がもうそれだけで素敵だね。
CDは自分では歌えないんだね、確かにそうだから切なくなりながら読み進めていったよ。

太陽の光と月の光…ひょんさんが好きなのは月の光になるのかな。
言葉は悪いけど…太陽の光からのおこぼれだけで光っている、草1本生えていない月という存在を登場させられていることで、さらに切なさが増殖されてしまったよ。

月の光の下、草むらに寝っころがったことがあるかな、気持ちいいんだ。
見上げると月だろう、風が寝ている体すれすれの、草の丈、そんな低い場所を吹き抜けるんだよ。
いいお話を読ませてもらったので、今夜は熟睡できるな(^^)

投稿: nezimaki | 2006.04.24 21:21

ちっぽけな物が
役目をまっとうできなかったり
運命に逆らえず
虚しく終わっていくとき
そっと月に見守られながら
悲しいままでなく何かほんの少しのことで
しあわせを満たして受け入れていく・・・
「月は誰に微笑んでいるか」の
シリーズで続けて書いてきました。

月の光の下の芝生、いいなぁ
どんなシチュエーションか
ちょっと想像しちゃいますよー

若かったんでしょー?ねじさん。
うふふ。。。好いわねぇ~

投稿: ひょん | 2006.04.25 18:53

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