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2004.05.04

「帰れなかったシンデレラ」

まだ新学期が始まってすぐの日だったから学校が終わるのが早かった。
桜も咲き終わって春の新鮮さが無くなってきた頃だった。
サキがアタリマエな通学路をいつも通りに帰ってきて何の気なしに家に入ると、
母さんが見慣れない箱を幾つか出している所だった。
「ただいま。何してるの?」
「ちょっとね、片付けもの。」
母さんは、古いけど細かな細工があってまるで、どこかのお姫様の宝石箱のような小さい箱を手にしていた。
「わあ、すごい。何それ?どうしたの?」
サキが聞くと母さんは箱を見つめ、しばらく考えていたようだがいたずらっぽく笑って思い切ったように言った。
「ねえ、シンデレラって、もし、お城から帰らなかったらどうなったと思う?」

聞いたのはサキのほうだったのに、逆に質問されてしまった。
しかも、その箱と何の関係があるのだろう?
「ぼろぼろの元の姿に戻るだけでしょ?」
サキが少しむくれているのを見て母さんは嬉しそうだ。
「そう、思う?」
「だって、妖精が言ってたじゃない。12時までに帰らないと魔法が消えて元に戻ってしまうって。」
「魔法が消えるって言うのは、確かよね。」
「だから、12時の鐘を聞いて、さよならって階段を降りてガラスの靴を落として帰っちゃうんでしょ?」

母さんは試すような顔をして聞いていたが、さあここで時間切れとでも言うように答えを言い始めた。
「物語とは言え、そう上手くいかない事もあるのよ。  かぼちゃの馬車の車輪がぬかるみにはまって、お城に着いたは良いけれどやっとのことで王子様の前まで辿り着いたのが11時57分だったシンデレラもあったのよ。
二人が踊る事が出来たのはたったの三分間。」
「短いけどさー、約束だもん、鐘がなったら帰っちゃうんでしょ?」
「それが、そのシンデレラは運悪く、慣れない靴で足をくじいてしまって、最後の鐘の音までお城で聞いてしまったの。   うーん、元の姿じゃ、やっぱり結婚は難しいわよね。」
「じゃあ、二人は一緒にはなれなかったの?」
「ところが、あの魔法は実はとっても強い魔法で・・必ず王子様と一緒になるっていうものなの。だから、本物のドレスや、かぼちゃが馬車でいられるのは、限られていて、最後の鐘までにお城を出ないと消えてしまう・・・・靴以外の小道具は、それ以上は必要ではなかったから。」

母さんは箱の蓋をそっと開けた。
オルゴールのワルツが流れ出した。
「魔法は、二人を一緒にさせてしまったの。永遠にね。」
箱の中では人形が二人、手を取り合ってくるくると踊っている。

「だけど、いつでも踊る事が出来るのは、三分間だけ。」
母さんはオルゴールを見つめながら満足そうに微笑んだ。
「でも、それは、母さんのオルゴールなんでしょ?」
「そうよ。私の大事な宝物。だーれもいないお城に、ぽつんと落ちていたんだから。」

ワルツが終わった。 母さんは蓋を静かに閉めた。

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